■ 絵本と子ども観
伊藤 順子
絵本はいろいろなメッセージを持っていて,同じ絵本でも異なった「ねらい」で子どもたちに読み聞かせす
ることができます。読み聞かせながら,絵と文の間をくぐりぬけ,子どもたちへいかに語りかけるか。そこに
は,それぞれの話者の子ども観が反映されていてとても興味深いものです。そこで,幼稚園の教育実習中に使
用した「絵本」で保育実践を再現してもらい,それぞれの学生さんの子ども観を覗いてみることにしました。
「どうぞのいす」 作/片山美子 絵/柿本幸造
4歳児(年中)クラスで読み聞かせをした絵本です。うさぎさんは「どうぞ の いす」という立て札と椅
子を作りました。どうぞの椅子にやってきたろばさんは,拾ってきたドングリが入ったかごを椅子において,
お昼寝をし始めました。そこへ,くまさん,きつねさん,りすさんが次々にやって来て,どうぞの椅子に置かれたかごの食べ物を食べてしまいます。でも,食べた後,
みんな「からっぽにしてしまっては あとの ひとに おきのどく」と,自分の持っていた食べ物を替わりにかごに入れていきます。お昼寝から目覚めたろばさんは,
かごの中の栗を見て「どんぐりって くりの あかちゃんだった かしら」と驚くという話です。学生さんは,「次に誰がくるかわからないのに,その人のことを気
遣って食べ物を残しておく」というさりげない優しさに感動し,子どもたちにこうした気持ちを育んで欲しいという願いからこのお話を読み聞かせたようです。
「はらぺこあおむし」 作/エリック=カール 訳/もりひさし
5歳児(年長)クラスで読み書かせをした絵本です。この絵本では,卵→幼虫→さなぎ→蝶という変態を経
て美しい蝶が誕生するまでが,美しいグラフィックアートによって描かれています。学生さんは,子どもの知覚に興味があり,「子どもたちは,大人のよ
うに視覚的に正しい眺めを表現するのではなく,描く対象について知っていることを描く(知的リアリズム)」という子ども観を持っています。学生さん
は,生物学的知識を色彩豊かな画面とその展開によって伝えることができる「はらぺこあおむし」という絵本を選び,子どもたちの知的リアリズムを育
みたかったようです。
※「どうぞのいす」片山美子作/柿本幸三絵/チャイルド本社
※「はらぺこあおむし」エリック=カール作/もりひさし訳/偕成社
(幼児教育講座)