■ 絵本の力 −カムパネルラと旅に出るにあたって−
藤田 博
絵本(を含む児童図書)には力があります。常識を打ち破る力です。それはどこから出てくるのでしょうか。子どもを対象とするものだから、というのがその答えに思われます。
子どもは常識にとらわれないものの見方ができます。その力を持った子どもを意識し、対象とする、だからこその力と言えるのです。
絵本の世界にあってあべこべ、ひっくり返しは当たり前、それこそが絵本の世界の常識です。小さなものが大きなものを飲み込むあり得ないことも、絵本の中でなら当たり前。
驚く心に見合うものです。ワーズワスの詩の一節、“The Child is father of the Man.”のパラドクスは、驚く子どもの心をなくしたくない、
それでいて常識にとらわれてしまった大人を歌ったものに他なりません。
エウゲーニー・M・ラチョフ『てぶくろ』は、そうした大人の常識に挑戦する絵本の代表です。雪の中に落ちている手袋の中にねずみが入り、かえるが入ります。
更にうさぎが入り、きつねが入り、おおかみが入り、いのししが入る。最後に大きなくまが駄目押し的にやってくるのです。入らないと言いながら入ってしまうのが不思議なところ。
そうした手袋があってもいいではないかとそのまま認める、子どもの発想によります。
大学という場にあって絵本は縁遠いものと思われています。大学は大人の世界と考えられているからです。その大人の世界を挑発する目的で授業の中で絵本はどう使われているのでしょうか。
あの先生があの授業で、ならば自分もこの授業でということがあってもいい。つなぐ力、それが絵本のもう一つの力だからです。
附属校園にあって絵本は最も近いところのもの。その附属校園と絵本を介してつながりをつくり出すことができればとの思いがあります。学生諸君にも手に取って欲しい、そのために図書館に足を運んで欲しい。
それをきっかけに奥の方の本にも手を延ばして欲しいと思います。つなぐ力を持った絵本につなぎの役を期待する所以です。
タイトルは「カムパネルラ」としました。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でジョバンニと旅をする友人なのは言うまでもありません。絵本が開く異世界への道案内人としての意味を込めたものです。
隔月という短い間隔での発行によって、大きな広がりを持つ絵本の世界を伝えていきます。
※「てぶくろ」ウクライナ民話/エウゲーニー・M・ラチョフ絵/内田莉莎子訳/福音館書店
(英語教育講座・図書館運営委員会委員)