平成27年度特別展示企画
■ ポスター
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附属図書館長 遠藤 仁
ご好評いただいている教科書展も9回目を数え、本年度は「歴史のなかの教科書~家庭科~」と題し、7月30日(木)から8月24日(月)まで開催致します。
家庭科は、もともと女子教育としての家事・裁縫、行儀作法等に端を発するのでしょうが、時代の進展にともない衣食住・生活管理、保育、家族関係等も包含しつつ、戦後は民主的な家族関係を母体とした豊かな家庭生活の構築とその充実・向上に資する教科として男女共に履修させるようになったと聞きます。もちろん社会の変化にともない、重点の置き方を変えるばかりでなく、その時々の教育課題に見合った指導目標と指導内容とが精選され、教科書も編纂されてきました。その一方で、教科としての意義・役割のみならず、個人の尊重やジェンダー論の観点から、議論が絶えなかったことも事実ですが、少子・高齢化、男女のパートナーシップ、消費者教育など、今後とも、その役割は重要性を増すものと思われます。このたびの展示では、家庭科の用具類などもご用意致しますので、あわせてご参照いただきながら、懐かしい教科書をお手にとりつつご覧ください。教科書が、まさに時代を映す鏡にほかならないことを実感されることでしょう。
なお、8月20日(木)には「家庭科教科書のあゆみ~明治期から現代まで~」とのテーマのもと、小野寺泰子先生にご専門のお立場からご講演いただきます。ぜひ足をお運びください。
最後になりましたが、講演のみならず監修までお引き受けくださった小野寺泰子先生、展示資料にかかわる煩瑣な作業に鋭意取り組んでこられた図書館職員の方々に厚く御礼申し上げます。
展示監修 家庭科教育講座 小野寺泰子
平成27年度の展示企画「歴史のなかの教科書」では,明治時代から現在までの小学校,中学校,高等学校で使用された家庭科教科書の移り変わりをご覧いただきます。
現在,家庭科の名称は,小学校では「家庭」,中学校では「技術・家庭」,高等学校では「家庭」という教科となっています。小学校5年生から家庭科は始まり,中学校では,技術科と家庭科が一緒になって1つの教科となっています。そして,高等学校では,普通教育の「家庭」は3科目(家庭基礎,家庭総合,生活デザイン)からの選択必修です。また,専門教育に関する教科「家庭」には20科目あり,各学校が特色ある教育を目指しています。
明治5(1872)年に学制が発布され,国民皆学を旨とする近代学校教育制度がスタ
ートしました。学校教育の中で家庭生活に関する学習は「裁縫科」と「家事科」という2つの教科で進められました。その後,家事科を独立した教科として置かない時期があったり,明治後期には理科家事と称して理科の中に家事科を位置づけたりという方法をとったこともありました。戦前の家庭科の歴史は,家庭をあずかる女子の教育の中心的教科として,大きい教育的役割を果たした足跡であるともいえますが,家事・裁縫を中心とした家庭作業主義の傾向があり,家族や社会とのつながりを総合的に検討するということが比較的少なかったといえます。しかし,戦争を終点としてその存在意義もまた変化しました。
戦後,家庭科教育では,男女ともに民主的な家庭建設をめざす家庭科への改革が行われました。当時の小学校・中学校・高等学校ごとに,戦後日本の発展・変化に従って改正され,内容の検討も進められて今日に及んでいます。
教科書の歴史は,第二次世界大戦を境に大きく変貌してきました。現行の学習指導要領では,人の一生を時間軸として捉えるとともに,生活活動に関わる金銭,時間,人間関係や衣食住,保育や消費などの事柄を空間軸として捉え,各ライフステージの課題と関連づけて理解させることが重要であるとしています。家庭科は生涯学習という観点から,小・中・高等学校の体系化,一貫性を重視することとなりました。
このように,家庭科の教科書の移り変わりを知ることは,私たちの生活を振り返るとともにこれからの生活を展望することに繋がります。私たちがこれまで家庭科を通してどのようなこと学び,生活に関わってきたのかを,歴史ある貴重な教科書と接しながら改めて見つめ直したいと思い,時代区分を6つにして展示をしました。なお,展示会場には,家庭科の授業で実際に使用するものや製作物なども用意しました。教科書とともにご覧いただければ幸いです。
宮城教育大学教育附属図書館の常設展示として2007年4月~9月の期間,中屋紀子先生(現:特任教授)が,家庭科の教科書を4期に分けて解説されています。
今回の展示を進めるにあたり,中屋先生が解説された『家庭科教科書をさかのぼる』(宮城教育大学附属図書館ホームページ掲載)をはじめとし,多くの資料を参考にさせていただきましたことを,心より感謝申し上げます。
日時:平成27年8月20日(木)13:00~14:30
場所:附属図書館スパイラル・ラボ